現代の高級ダマスカス包丁の仕様書を見ると、必ずと言っていいほど「VG-10」または「AUS-10」のいずれかが芯材として記載されています。日本の誇る2大高炭素ステンレス鋼の金属成分、微細組織、硬度、そして実際の調理現場におけるメリット・デメリットを科学的に分析します。
| 項目 | 武生特殊鋼材 VG-10 | 愛知製鋼 AUS-10 |
|---|---|---|
| 炭素 (C) 含有率 | 0.95 〜 1.05 % | 0.95 〜 1.10 % |
| クロム (Cr) 含有率 | 14.5 〜 15.5 % | 13.0 〜 14.5 % |
| コバルト (Co) | 1.30 〜 1.50 % (添加) | なし |
| 標準硬度 (HRC) | 60 〜 62 HRC | 59 〜 61 HRC |
| 耐チッピング性 (靭性) | 7.5 / 10 (やや硬質脆性) | 9.0 / 10 (高靭性・欠けにくい) |
| 研ぎやすさ | 7.0 / 10 | 8.5 / 10 (素直に研げる) |
最も重要な違いは『コバルト(Co)の添加』です。武生特殊鋼材のVG-10には約1.5%のコバルトが含まれており、焼入れ硬度を高め耐摩耗性を極限まで引き上げます。一方、愛知製鋼のAUS-10(またはAUS-10V)はコバルトを含まない代わりにバナジウムとモリブデンをリッチに配合しており、VG-10よりも靭性(粘り強さ)が高く刃こぼれしにくい特性があります。
AUS-10のほうが水砥石での研ぎやすさ(研削性)に優れています。VG-10はコバルトと硬質炭化物により砥石の上でやや硬く滑る感覚がありますが、AUS-10は素直に研ぎ汁が出てバリ(カエリ)が出やすいため、中級者以下でも短時間でカミソリ刃を復活させられます。